わが靴の破れたるごとく

 やかに美しかりし
 かの若き日の観賞は乾からび
 今ははや
 まことに凋みたる
 かなしき傷痕のみ
 その破れたる心抱きて
 今宵また氷雨しみらなる
 暗き街々をさまよへば
 わが靴は心とともに
 憐れに貧しく
 しみしみと泣くなり

作品紹介
「わが靴の破れたるごとく」は昭和10年の12月、南吉22歳、東京外語学校(現 東京外国語大学)4年生のときに書かれた作品である。
 この詩は悲しみそのものが、破れた靴という形を通して直に伝わってくるような作品である。
 幼い日の生母との死別、病弱な体、失恋、そして貧しさと、いくつもの悲しみを背負いつつも、南吉は終生文学への情熱を失うことは無かった。