ひよこ

君だって
大人のすることだけはする
開放されると
自由の広さを味わってみるため
力いっぱい羽搏くのだ
ただその途端 一尺ばかり
よろけていって
しりもちをつくというだけのことさ

鶏はときたまひじょうに
人間に似たしぐさをする。
午前十時と午後三時頃
首を傾げて日の高さを見る。
仕事の捗らぬ職人のやうに。

作品紹介
南吉文学の中に流れる最も重要なテーマの一つは、“かなしみ”であるが、日本文学だけでなく、西欧文学にも多く学んだ南吉は、生来のウィットとユーモアに富んだセンスもまた研いていた。
 昭和13年、安城高等女学校に職を得た南吉は「にんじん」などの作品で知られるフランスの作家ジュール・ルナールの各種動物を散文詩風に描いた「博物誌」という作品に 触発され「ひよこ」「蚤」「鼠」「蛇」「金魚」などといったしゃれた作品をいくつも発表する。
 「ひよこ」が親になるとこんな仕草をするものかということで「鶏」もおいてみた。