うた時計

 町へ向かうさびしい野原の道を少年と男が歩いていく。少年の名はれん。男が連隊の連かと聞くと、少年は清廉潔白の廉だと言う。

 おじさん連隊にいたの。うん連隊みたいなとこにと。おじさんポケットに手を入れていい?僕たち朝学校に行くとき先生のポケットに手を入れて行くんだと。人なつこい少年だ。

 少年がポケットのかたい冷たいものにふれると美しい音楽が流れ出した。男はあわててそれをおさえた。オルゴールだという。少年はポケットから出していい?もう一ぺん鳴らしていい?僕が遊びに行く薬屋にうた時計があるよ。薬屋のおじさんは日露戦争の勇士で、そのうた時計は凱旋して帰るとき大阪で買ったのだと話した。

 また、薬屋のおじさんは、うた時計が鳴るとさびしい顔をするよ。息子の周作さんのこと思い出すんだって。周作さんは不良少年で、学校がすむとどこかへ行っちゃったんだって。僕、妹のアキコが死ぬ前にもう一ぺんあれを聞きたいと言うんで、借りてきて聞かしてやったよ。命日にも聞かしてやったよとも。

 大きな池のはたで「ひイよめ、ひよあ・・・」とうたうと、男はなつかしみ、分かれ道で、昨夜、その薬屋でとめてもらって、間違えて時計を持ってきた。返してくれないとか。そして、名前のように立派な正直な人になれよと言って別れて行った。

 後を追って自転車で来た薬屋のおじさんに、うた時計をかえしてくれ、僕に人間は清廉潔白でなくちゃいけないと言っていたと。そして老人が時計を受け取る時、手がふるえ時計のねじに触れ、時計は美しくうたいだした。

作品紹介
 南吉には、少年を主人公とする「生活童話」、大人を主人公とする「民話風昔話」があるが、ここに登場する少年は寂しく孤独で、大人は素朴で善良で欲はないが、子供と親しく関わることが少ない。「うた時計」の少年は、人なつっこく心を開き、見知らぬ大人ともすぐ親しくなれる。南吉には珍しい少年像であり、大人との物語である。

 昭和16年11月24日の作で、同17年2月号「少国民の友」に掲載され、同17年10月10日「おぢいさんのランプ」として出稿された。