飴だま

 春の温かい日、渡し舟に二人の小さな子供をつれた女の人がのりました。舟がでようとすると侍が一人走ってきて舟に飛び乗りました。侍は、舟の真ん中にどっかり座って居眠りを始めました。

 黒い髭を生やして、強そうな侍が、こっくりこっくりするので、子供たちはおかしくてわらいました。お母さんは侍が怒っては大変だからだまっておいでと言いました。

 しばらくして、一人の子供が、飴だまちょうだいと言うと、もう一人の子供もあたしにもと言いました。お母さんは懐から紙の袋を取り出しましたが、飴だまはもう一つしかありませんでした。二人の子供は、両方からせがみました。お母さんは困ってしまいました。向こうへついたら買ってあげるといっても、子供たちは駄々をこねました。

 居眠りをしていた侍が、眼を開けて、子供たちを見ていました。お母さんは驚きました。侍は怒っているに違いないと思いました。すると侍が、すらりと刀をぬいて、お母さんと子供たちのまえにやって来ました。そして飴だまを出せと言いました。お母さんはおそるおそる飴だまを差し出しました。侍はそれを船のへりにのせ、刀でパチンと二つに割り、二人の子供にわけてやりました。それから、またもとの所にかえって眠り始めました。

作品紹介
 南吉の作品に、幼年童話と呼ばれるジャンルがあります。「飴だま」は、この作品群に属し、侍を登場させる作品です。

 南吉には、中山氏の子孫にあたる友人が近くにいて、その話や資料が侍の物語を生む素材になったと考えられます。中山氏は戦国末に岩滑を治め、江戸幕府では旗本、維新後、先祖の地岩滑に帰った人です。

 「飴だま」には、昭和8年「カシコイ一年小学生」に掲載された「アメダマ」があり、それが、昭和16〜17年頃書き直されたものだと思われます。