おおおとこ
巨男の話

 巨男の母親は、鷲の口ばしのような高い鼻と蛇のような鋭い目をもつ恐ろしい魔女でした。

 ある月夜のこと、王女様と侍女が森の道に迷って、宿をなんとかしてくれと訪れました。魔女は、ゆっくり休んでくださいと優しく言いましたが、翌朝には王女様は白鳥に、侍女は黒鳥に変えてしまいました。巨男はこの白鳥をこっそり飼ってやりました。

 やがて魔女は年をとってうごけなくなり、巨男に魔法を教えましたが、人を鳥や獣に変えるものばかりで、魔法の解き方をなかなか教えてくれません。死の間際になってやっと涙を流せば元の姿にかえると教えました。

 巨男は、母を葬り、白鳥を連れて都へ上りました。途中でも白鳥に涙を流させようとしましたが、一滴の涙も流しません。七日目に都につきましたが、巨男が魔女の息子だと知って、宮殿に大理石の塔を建てさせるよう進言した人がいました。大理石は、山一つ、砂漠一つ越えた南にあります。巨男逃げられないように鉄のくさりに結ばれていました。

 巨男は、白鳥を連れ、苦しい長い旅でやつれ果てて枯れ木のようになって大理石をかついで帰り、毎日毎夜槌とのみで大理石を切り、これを積み重ね、塔をつくっていきました。仕事中も白鳥を背に止まらせ、お前はどうしたら涙を流すのかと語りかけながら、私が死んだらお前は悲しむかと、そして塔の上から身を投げ死にました。

 白鳥は嘆き、涙を流し、魔法が解けて麗しい元の王女になりました。王は一部始終を聞いて、巨男に謝罪し、感謝しました。王女はいつまでも白鳥でいて、巨男の背に止まっていたかったと言いました。

作品紹介
 「巨男の話」は、欧風の物語でセンチメントを内容とするという。南吉は習作をしていた半田中学、東京外語の時代にこの欧風の物語をいくつか書いている。この童話は、南吉が半田中学四年、六月一日に着手。六月六日に脱稿と日記にある。すぐ弟に読み聞かせたら、涙を流しおったと書いている。半田中学の同級生の朗読会で読み聞かせるほど愛着と自信を持った作品だったようだ。これは、福井で発行されていた少年文芸誌「緑草」に投稿し掲載されている。