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アブジのくに
村に電車が通ることになり、電車道を造るトロッコを押す朝鮮の人が大勢やって来ました。お宮の東の空屋に住んでいました。下駄屋の小母さんが地下足袋を売っていました。「こんちは足袋ください」と一人の朝鮮人が来ました。下駄屋の家の入口がふさがってしまう位大きな人です。女の子を一人つれていました。 「はい何文ですか」 「十一文半位です」 十一文半では小さくてかかとが入り切らないのでした。小母さんはめったに売れない十二文のをたなから出しました。十二文で丁度きっちりはけたのでした。「よい」と言ってお父さんは、お金を出しました。 女の子が可愛らしい子なので「可愛らしい子ですね」と言うと、何だか判らなかったのか「え?」と言ってお父さんは小母さんの顔を見ました。「可愛らしい子ですね」「判らない」お父さんは首をふって笑いました。「判らない」お父さんは首をふって笑いました。「可愛らしい」と言う言葉がわからないのでした。「年はいくつですか」「三十二」「あなたの年ではありません、この子のですよ」お父さんは、「七つ」と言いました。「何という名」「つや子」小母さんはあられを少し紙に包んで朝鮮服を着た女の子にやると、女の子ははずかしく思って足袋をはいているお父さんの陰にかくれました。 「いい子だね、さああげましょ」 お父さんは足袋をはきながら、もらいなさいといいました。女の子は小さな手を広げて、あられをもらいました。 つや子が遊びにきたとき「お父さんはあちらで何て言う」とおばさんがたずねました。 「アブジ」 「お母さんは?」 「あんまあ」 女の子は、白と黒の美しい朝鮮服を着ていました。小母さんは、それをいい着物だと言ってほめてやると、つや子はまだいい着物があると言いました。小母さんは「そうかね」と言って、やっぱり朝鮮服の女の子も着物のいいのがうれしいのだたの思いました。 「行ってまいりました」と言って小母さんの男の子が学校から帰ってきました。つや子が「アブジ」と言いました。小母さんは、笑いながらアブジと言うのはお父さんと言うことでありょと男の子に話しました。 つや子のお母さんは、晩方になると、大きな声で「つやーつやー」と呼んでいます。これが一町もはなれた下駄屋まで聞こえて来ます。
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