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鍛冶屋の子(抄)
何時までたってもちっとも開けていかない、海岸から遠い傾いた町なんだ。- 街路はせまい、いつまでも黒くきたない、両側にぎっしり家が並んでゐる。- 新次は鍛冶屋にのんだくれの男を父として育った少年である。母は彼が幼い時に逝った。兄があり、いい歳をしていたが、附近の子供と遊んでばかりゐた。 父は仕事をしている最中でもふらふらと出て行っては、やがて青い顔をして眼を据へて帰って来た。 - 「お父っあん」、ちと酒をひかへてくれよ、酒は毒だで!」新次は言った。 「まったく酒は毒だ、酒は苦い、けど俺はやめられん。きさま達は酒をのむ様になるなよ」と父は言った。 ふと見ると神棚の下で酒を飲んでゐる、兄馬右ェ門の姿があった。 「この野郎!」父は叫んでニヤニヤしている馬右ェ門の横面にガンとくらわせた。 「俺あ酒を止めるぞ」と言い、父は酒を飲まなくなったが、それから何処か加減が悪くて床を出られなくなった。 酒を買ってきた新次が父の枕もとに座って、「お父っあん」と呼んだ。 「酒を買って来た?新、何故酒なんか買ってきたんだ」力のない声で新次を叱ったけれど、父はきらりと涙を光らせた。 「お父っあん飲んでくれよ」新次は、そっと父の枕元を去って、仕事場へ来ると、黒い柱に顔をすりつけて泣いた。
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