手袋を買いに

 はじめて雪を見た子狐は、雪のまぶしさにびっくりして眼に何かささったと思いました。雪の上をかけまわって遊んでいた子狐の冷えた手をやんわりと包んでやりながら、母狐は、夜になったら町まで行って毛糸の手袋を買ってやろうと思いました。

 夜になって、狐の親子は洞窟から出て町に向かいました。母狐は町の灯を見たとき、昔友達が家鴨をぬすもうとして一緒にお百姓に追いかけられたことを思い出しました。人間のこわさを知っている母狐は、子狐の片方の手を人間の手にして、坊やだけひとりで町まで行かせることにしました。

 母狐は、町へ行ったら丸いシャッポの看板のかかった家をさがして戸をたたき、中から人間が戸を開けたらその戸のすきまから人間の手を差し入れて、この手にちょうどいい手袋をちょうだいと言うんだよ、と言い聞かせました。

 子狐は、黒いシルクハットの帽子屋を見つけて、教えられたとおりトントンと戸をたたきました。戸が開いて光の帯が雪の道にのび、その光がまばゆかったので、子狐はまちがえて狐の手の方を出してしまいました。帽子屋さんはおやおやと思いましたが、白銅貨をたしかめて毛糸の手袋を持たせてくれました。

 帰り道、窓の下で人間の親子の子守歌や会話を聞いた子狐は、母親がこいしくなり急いで帰りました。子狐が「人間てちっともこわくないや」と言いうのを聞き、母狐は、「本当に人間はいいものかしら」とつぶやくのでした。

作品紹介
南吉自筆の原稿の末尾に「1933・12・26」とある。また、作品構想のメモが残されており、題が「手袋を買いに」とかかれ、「登場人物」として「母狐」「子供の狐」「帽子屋のご主人」「帽子屋のお内儀さん」「窓の中の母親」「窓の中の子供」・・・とある。これは戯曲としての構想のようである。

 この作品の刊行は、南吉がなくなってから出版された「牛をつないだ椿の木」(昭和18・9・10大和書房)に含まれていた。

 この作品は、新聞にも雑誌にも発表されていない。南吉としてはめずらしいことである。なぜ、この作品をかくも長く暖めていたかは謎でもある。