花のき村と盗人たち

 花のき村に五人組の盗人がやって来ました。かしらはずっと火付けや盗みをしてきた本当の盗人ですが、弟子達はなりたての盗人です。釜師だった釜右エ門、錠前師の海老之丞、越後から来た角兵衛、大工の息子の鉋太郎の四人です。

 そこで、かしらは弟子達に、それぞれの前の職業のふりをして、何か金目のものはないか、様子をさぐりに花のき村に入り込ませました。はじめて盗人の親方になったかしらは、これは調子がいいと、一服吸いながら寝転んで待ちました。

 ところが弟子達は、根が善良で前の職業の心やくせが出て、どろぼうとしては失敗ばかり。一方かしらは、子牛をつれた男の子に出会います。男の子は、かしらに子牛をあずけて遊びに行ってしまいました。かしらは、はじめて人に信用されてうれしく思います。

 しかし、いつまでたっても男の子は牛を取りにきません。かしらは弟子達と探しに行くのです。が、わからないので村役人に届けます。村役人もこの盗人達を信用して、ご馳走してくれました。盗人はうれしくなって、ついに自分達は盗人であることを白状して、これからはまじめに生きることを誓います。

 牛をあずけて消えてしまった男の子は、実はお地蔵様だったのでした。

作品紹介
 昭和17年5月、南吉晩年の作。この書名で帝国教育界出版部から18年9月に刊行された。

 むかし、安城に「花のき」という字名があり、今安城市役所東に花の木町がある。愛知県の木「ハナノキ」がたくさん自生していたという。

 南吉は、この安城の地に昭和13年から18年まで、高等女学校の教師として勤め、同14年からは下宿している。昭和17年4月の日記に「百姓達の村には本当に平和な金色の夕暮をめぐまれることがある。麦の穂は美しく出そろい、山羊小屋の窓がかくれるほどである。」の描写。

 こういう南吉の村観と花のき村という美しいひびき、そして善良な村の人々。ここで、盗み心をすてるまでの出来事をほほえましく、ユーモラスに描いている。