赤い蝋燭

里へ遊びに行った猿が、一本の赤い蝋燭を拾い、花火だと思って山へ持ち帰りました。
 山では花火など誰も見たことがありません。猿は、花火というものは大きな音を出して爆発し、空に美しく広がるものだと話して聞かせました。皆がそんなに美しいものならぜひ見たいと言うので、猿は今晩山の頂上で打ち上げてみようと言いました。

 夜になり、猿は山の頂上で赤い蝋燭を木の枝にくくりつけて持ちました。やがて皆が集まり、花火を打ち上げることになりました。しかし困ったことに誰も花火に火をつけようとしません。そこでくじを引いて火をつけに行くものを決めることにしました。

 第一に亀があたって花火まで行きましたが、いざと言うとき首が引っ込んで火をつけることができません。次にいたちが行きましたが、近眼なのできょろきょろしているばかりでした。とうとう猿が飛び出し、火をつけてきました。皆はびっくりして耳も目もふさいでしまいました。

 しかし蝋燭は「ポン」ともいわずに静かに燃えているばかりでした。動物達はほっとして仲良く火を見守りました。

作品紹介
 「赤い蝋燭」は、昭和11年11月発行の武田雪夫編「幼稚園と家庭 毎日のお話」に「お母さん達」「木の祭り」とともに掲載されました。
 この本は、1年間、毎日1話、366のお話を総勢70余名の作家で書いています。すでに一家をなした作家にまじって、無名の南吉にこの機会を与えたのは与田準一でした。
 南吉の幼年童話のほとんどは、昭和7年〜10年に書かれていますが、これらの作品もこの時期のものと思われます。
 昭和11年3月に、南吉は東京外国語学校を卒業しました。就職難で望んだ中等教員の口がなく、東京土産品協会で月給4千円。さぞ不本意だったことでしょう。この年11月に病におかされ、帰郷を余儀なくされます。