七人の子供が、夜のお祭りを見にゆく途中で、文六ちゃんの下駄を買いました。どこかのお婆さんが、「晩げに新しい下駄をおろすと狐がつくというだに。」と言いました。「迷信だ。」と言いながらも心配そうな顔の子ども達を見て、下駄屋の小母さんがマッチをするまねをして新しい下駄の裏に触れ、まじないをしてくれました。

 子供たちは、綿菓子、稚児さん、鼠花火やかんしゃく玉で楽しみますが、三番叟の人形のぶきみさを見て、文六ちゃんの新しい下駄のことを思い出しました。

 帰り道、文六ちゃんの咳が、「コン」と聞こえたような気がしました。少しはなれた文六ちゃんの家へ送ってゆく子がいません。ひとりぼっちになった文六ちゃんは、祭りの楽しさは消え、自分が狐につかれていたら両親はどうするだろうと、不安になってきます。

 お母さんと一緒に寝た文六ちゃんは、もし僕が狐につかれたらどうするかと聞きました。お母さんは自分達も狐になると言いました。そして猟師に追われたときは、文六ちゃんを助ける為に、びっこをひいてゆっくりゆくと。

 最晩年、南吉は母親のやさしさと強さをこの作品に描き残しました。

作品紹介
 この作品は、昭和18年1月にかかれ、同年9月10日童話集「牛をつないだ椿の木」の中で発表されました。南吉は、狐を描いて、あるいは狐ばなしを取り入れて、己の心を描くのに、優れた才能を持ち合わせていました。彼は、狐ばなしも好きでしたが、狐とともに自然に生きたころの人々が好きだったと言えます。「狐」では、自分の命を捨ててまでも子どもを守るという、強さをもったやさしい母の姿を描いています。幼くして母を亡くした彼には、母は終生のテーマでした。
 なお、南吉はこの作品を書く前から病気が重くなり、原稿用紙のすみには、「店の火鉢のわきで。のどがいたい。」とのそえがきがあります。死を覚悟した南吉が最後の力を振り絞って書いた作品として印象的です。